三線の値段を決めるのは?
三線がまったくの初めての方が教室に来られた際、三線をお持ちで無い場合は、最初はレンタルの三線を用意して触って貰いますが、
「よーし、これから頑張って稽古するぞ」
となったら、案外早い時期に、マイ三線を購入することになるのは自然な流れになると思います。やっぱり自宅でも稽古していただかないと、上達は難しいからです。
ところが、正直な話、最初の三線を選ぶのは、難しいです。
どれ位の予算を用意すればよいのか?などを筆頭に、判らないことだらけなのは当然、誰もが思うことは同じで、一円でも安くて、さらには、上等な音がする三線が欲しいに決まってます。
これから三線を始めようと言う方にとっては、相場というのが判らない、もっと言えば、初心者の方にとって、良い音というのがそもそも判らないですから。
沖縄へ行った際にお土産物屋で購入した三線、オークションで5千円で購入したという方など、少々使いづらい三線を手に稽古に来られる方も実際にいらっしゃって、最初の三線を選ぶ難しさを目の当たりにすることは少なくないです。
今回はそんな、初めての三線を選ぶにあたって、知っておきたい三線の各パーツのウンチクなどを紹介していきたいと思います。
三線選びのお役に立てれば幸いです。
Contents
三線の各パーツ
シンプルな楽器とは言え、三線も様々なパーツが集まって、ご存知の通りの美しい音を奏でてくれ、私たちを楽しませてくれるわけです。
棹
三線の要だと言われるのが「棹」になります。ギターやベースで言うところの、ネックの部分になります。
この棹の見た目の違いも色々とありまして、沖縄の三線では大きく別けて7つの伝統的な三線の型(かた)が知られています。
真壁型(マカビ)
与那城型(ユナグシク)
南風原型(フェーバル)
知念大工型(チネンデーク)
平仲知念型(ヒラナカチネン)
久場春殿型(クバシュンデン)
久葉の骨型(クバヌフニ)
現在、流通している三線の型の8割以上が、真壁型とも言われていて、続いて与那城型が続きます。上の画像は、久場春殿と真壁という型で、特に久場春殿は珍しい型かもしれません。天と呼ばれる頭の形の部分だけを見ても、違いが判りやすいかと思います。
なぜ圧倒的に真壁型の三線が多いのか?
三線の世界には「開鍾」と呼ばれる、銘器を指す言葉があります。ある時、首里王府の別邸だった御茶屋御殿(ウチャヤウドゥン)で三線の弾き比べが催されました。
その際に、夜明けを告げる鐘の音、開静鐘が響き渡る時刻になっても美しい音を奏で続けたということで、「開鍾」という言葉が使われる様になりました。
その開鍾三線はすべて真壁型だったことから、真壁が一番沢山流通しているんじゃないかと言われているようです。
名工と名高い、真壁里之子の作った三線の弾き比べだったので、他の三線の型が無いのはどうか、と言う声もあるみたいですが、真壁型は細身で天と呼ばれる頭の部分のカーブなど、間違いなく美しい三線だと思います。
民謡をする人は真壁、古典は与那城、と言うような傾向はあるようです。
お値段に直接関わってくるのは、三線の型ではなく、材質による部分が大きいです。
黒檀(黒木)が三線の棹の材質の中では一番の人気で、中でも今では希少な八重山黒木と呼ばれる八重山産のものは、三線弾きにとっては憧れの棹で、お値段は天井知らず、その希少性から、今では100万円もの値段が付いている黒木の三線も普通にあります。
黒木は、沖縄の言葉で言うと、クロキ → クルチ ですね。
しっかりと何年も寝かされて加工されたクルチは、三線の棹として作られた後も、棹が捻れたり反ったり動くことが少なく、その性質からクルチ信仰という言葉があるぐらい三線には適した素材だと言われ、昔から人気のある棹材でした。
その他、紫壇や花梨、ゆし木や樫など、今は様々な木が三線の棹の材料として使われています。
黒木が一番良いのか?という話ですが、先の開鍾三線の中でも特に良い音がしたと言われる三線を五開鍾と呼びますが、五開鍾の中にはユシ木で作られた三線も含まれており、絶対に黒木が一番だとは言えないのも本当です。
もっとも、最近では県産のユシ木でさえ三線に適したものは手に入りづらくなり、高騰してきているんだとか。
棹の塗り
一昔前の三線の棹は本漆が塗られ、漆黒に塗られた棹は三線の顔の特徴と言っていいぐらいでしょう。ところが、本漆は塗装に大変な手間も暇も必要で、丁寧に加工すると半年とかは普通にかかってしまうそうです。
そんなこともあって、今はそのほとんどが安価で加工のし易い、ウレタン塗装、カシュー塗装などが普通になりました。
堺の漆師、春慶が考案したと言われる春慶塗り(沖縄ではスンチー塗りと呼びます)は、透明な塗りで木目の美しさを楽しむことの出来る塗装で、近年よく見かける様になりました。他にも、つや消しや塗を施さない仕上げなどもあります。
手間暇がかかってしまう本漆塗りの棹が高価なのは当然として、オーダーともなれば、塗装の違いによってもお値段は少々変わってしまいます。
三線の皮と胴
棹の材質でお値段は変わると書きましたが、材質だけで三線の音が決まる訳ではありません。
皮と胴も音を決める要因としてはとても重要で、三線の音は棹と胴のバランスが大切になるのです。
皮
この記事を見ていただいている方は目にしたことがある方は多いと思いますが、胴に張られた、蛇の皮が三線の大きな特徴のひとつです。この蛇模様から、特に内地では蛇味線(じゃびせん)とも呼ばれます。
上の画像はまだ三線用に加工する前の一匹丸々分のニシキヘビの皮、この状態で工房へやってきて、カットされ、水に浸けられて皮に残った余分な物を取り除き、ようやく三線用の皮として胴に張られます。
ニシキヘビの皮も種類があって、現在、「インドニシキヘビ」はワシントン条約で輸入禁止となっています。「ビルマニシキヘビ」と「アミメニシキヘビ」がワシントン条約の二種に属しているため、養殖されたものに限り、輸出国の許可があれば取引できるそうで、沖縄に入ってくるニシキヘビのほとんどが、ビルマニシキヘビだそうです。
三線に張られる皮には二種類があって、本物のニシキヘビの皮を使った本皮と蛇模様のプリントの人工皮があります。
人工皮は今では色んな模様の物が作られていますが、画像の様な模様が一般的だと思います。
画一的な模様の人工皮に比べて、本皮はやっぱり見た目も美しかったりするものの、破れてしまうというリスクはつきまといます。とは言っても、良い素材で丁寧に張られた本皮は3年やそこらで破れたという話は耳にしません。
破れる時は、こんな風にいつの間にか、パックリとクチを開きます。こうなると、新しい皮に張り替えるしかありません。
対して、人工皮は、破れなくても皮が緩んできたりして、張り替えることはありますが、ほぼ永久に破れてしまうことは無いと言って良いぐらい丈夫です。
人工皮は、皮を強く張れると言うメリットもあって、奄美民謡に使われる奄美三線などは、皮を強く張ることで高く張りのある音を出すことが出来る上に、奄美三線はバチで胴を叩く様な弾き方もするので、今では本皮を使う人はほとんどと言ってよいほど見かけません。
画像は二重張の皮の加工中です。人工皮の上にこれから本皮を張って、見た目は本皮と変わらない三線の胴が完成します。
奄美民謡で使われる奄美三線を除き、琉球民謡で使われる三線の世界では、音はやはり、本皮に分配が上がります。琉球の民謡を演る人は、一部の方を除いて、最終的には皆本皮の三線を使っています。
本物のヘビの皮を使う分、お値段はやはり本皮が高くて、本皮 → 二重張 → 人工皮 と言う感じです。
本皮のどの部分を使うかによってもお値段は変わってきて、一つ一つの鱗の大きな、尻尾に近い部分の方が上等な皮だと言われます。
なので、目に見える表側は上等の皮を使って、見えない裏側はワンランク下の皮を使うというのが一般的なようです。
画像では分かりづらいかも知れませんが、同じ三線の右側が表、左側が裏になります。鱗の大きさや並びが違うのが判りますか?
胴
胴には皮が張られているので、普段は工房にでも行かない限り、まず目にすることはありませんが、内側も色々な工夫が施されているものもあって、分かりづらいですが、画像を見ていただくと、色んな細工が施された胴がありることが判ると思います。
素材はチャーギと呼ばれるイヌマキやクスノキなどが使われることが多いようですが、中には黒木などの高級材を使った胴もあるとのこと。
一度皮を張られた三線の胴の素材や中の構造などは、後から判別付けるのは現実的に難しいので、もし胴にもこだわりたいのであれば、依頼する際にその旨を告げる必要が有ります。
とは言え、だいたいそこまでしてオーダーすることは普通はありませんし、対応してもらえる三線店も少ないと思います。
好みの音を伝えたりした上で職人さんにお任せすることの多いパーツですが、音に直接関係するにもかかわらず、関心度は低いのは何故なんだろうと思っています。
ティーガー
胴の部分に巻きつける装飾品がティーガーです。そのまま、胴巻きと呼んだりもしますね。
無くても演奏には差し支えないものの、ティーガーを巻くことで、三線がぐっと引き締まるというもんです。
安いものは千円と少し、希少な織物を使ったものや牛革の細工が入ったものなど、何万円もするティガーもあります。
ティーガー留め
このパーツもまた、直接、音に関係するパーツでは有りませんが、ティーガーを留めるこういった飾りもあります。姿形も色々、象牙で出来たものなどは何万もするので、とても手を出せませんが、流通する素材のものだと割とリーズナブルです。それでも3000円ほどしますが、、、。
大事な自分の三線を着飾るという気持ちは分からなくも無いですから、大切なマイ三線を着飾るのは楽しいカスタマイズだと思います。
カラクイ
三線の糸巻き、カラクイです。
棹を作る過程で出る端材などを使って作られたり、カラクイもまた色んな材質の物が販売されています。大きさも色々、派手な装飾を施した物があったりします。
画像は、クリスタルガラスで有名なスワロフスキーを使った派手カラクイ。
別の友人は、こんな象牙のカラクイを愛用していますが、それなどはそこそこの三線がひと棹買えるぐらいの代物です。
そんなカラクイが音に影響があるのか?そんなに関係無いという声もあれば、やっぱり黒木のカラクイは良い、など意見は色々ですね。
個人的には糸の振動をそのまま伝える大事な部品の一つだと考えるものの、私は派手なルックスの象牙などに単純に憧れているミーハーな三線弾きです。
倒したりして、カラクイを破損することは少なく無くて、私も一度やってしまったことがあります。カラクイもまた予備の物を常に持ち歩くぐらい重要なパーツの一つ、実際に私達がお世話になっているきよむら三線工房だと、三線を購入した際には必ず予備のカラクイを渡されるぐらいです。
一緒に購入しておきたい備品と消耗品
自宅にはもちろんですが、稽古の際など常に持ち歩きたい備品、消耗品があります。
絃
三線は、特に琉球民謡を演っていれば、ギターなどの弦楽器とは違い、糸が切れることは少なく、一年に一度ぐらいしか交換しない、みたいな人も多いですが、糸は消耗品だと思って必ず用意しておきましょう。
嵩張るものでも無いし、一セットや二セット持って置けば、自分だけでは無く周りの者にも重宝されると思います。
画像の黄色い物は、奄美三線用のもので、「大島絃」や単に「大島」などと呼ばれ区別されます。沖縄の絃よりも細く、高い音が出ます。
ウマ
ウマと言うのは、絃を支えてその振動を胴に伝える重要なパーツです。
プラスチック、竹、黒木などウマもまた色んな素材の物が有ります。
私の周りでは、一つ200円ぐらいの竹素材のウマの愛用者が多いです。というのも、面白い話を聴いたのですが、竹のウマが良いのは、音だけではなくて、適度な強さだと言います。
ウマを立てたまま、万が一倒してしまったりの不慮の事故の際、竹のウマだと本皮を破ったりしてしまう前にウマが壊れてくれるから大事には至らないと。
その話を聞いて以来、黒木やら色々使って来ましたが、私も竹のウマ一筋になりました。
消音ウマ
住居の都合で、自宅ではちょっと音を出しづらい、とか、夜中にも練習したいという熱心な方は、消音ウマと呼ばれる画像の様なウマを一つ持っていると便利です。
某氏が、消音ウマを立てて沖縄の宿で練習している姿を見たことがありますが、これなら宿でも大丈夫、音は相当小さくなります。
弾いた音をしっかりと吸収してくれるので、隣近所や家族などにも気を使わずに練習することが出来る、結構活躍する小道具だと思います。1000円もしない物です。
ツメ
ツメ選びは三線と同じかそれ以上に難しいなと思う道具の一つです。
バチという呼び方も有りますが、沖縄三線の世界では、ツメが正しい呼び方です。
大きも様々、素材もしかり。形も数え切れないほどあります。指を入れる穴の大きさなど、組み合わせはそれこそ無数。
まずは、教えて貰っている教室なり、先輩のアドバイスに従って一つ手にして、それから次の物と言う感じで慣れていくしか方法はないかもしれません。
私などは、徹底的に人のツメをちょっと試させてくださいとお願いして、幾種類ものツメに実際に触れて、今のツメにたどり着きました。とは言え、そのツメも、もう少し○○だったらと次々に次の欲求が出てきてしまいます。
画像のツメ、実は大半がメイドイン大阪なのです。本業の傍ら、三線のツメを作っている方がおられます。ツメに付いてはいずれまた、じっくりと紹介したいと思います。
チンダミ道具
調弦、チューニングのことを方言で「チンダミ」と言います。
ギターで使うチューナなど、自分が使いやすい物を持ち歩くと良いと思います。
宮絃会でお勧めしているのは、画像の左上の円形の笛で、先輩方は笛を使うと耳が鍛えられるといいます。なるほどと言う節は確かにあるので、宮絃会では笛の愛用者が多いです。
チンダミ笛、調弦笛、みたいに呼ばれており、ギターなどの弦楽器の世界では、ピッチパイプなどという呼び方もされるようです。
今ではスマホの無料アプリにチューナーはあるので、万が一、笛などを忘れてしまった、みたいな時の為に、私もスマホのチューナーアプリは入れてあって、実際に役にたっています。スマホは片時も離さないですから。
三線ケース
これもまた三線の音には直接関係はありませんが、持ち運びにはケースは必須の道具です。
三線ケースには
三線袋
ソフトケース
セミハードケース
ハードケース
などが流通しています。
三線袋と言うのは、ただの袋状の布で持ち運びの際の保護には、裸で持ち歩くよりはマシかも知れませんが、ほぼ役にたたないのは想像出来ると思います。
飛行機での移動の際には、この三線袋の中に入れた上でハードケースに収納、手荷物として預けるという慎重な方もいらっしゃいます。
後は、ハードケース > セミハードケース > ソフトケース、と三線を保護する為の強度です。後は軽さですね。当たり前ですが、ソフトケースが一番軽くて、ハードケースが一番重いということになります。
強度を取るか、軽さを取るか、こんな感じで、色々ケースはあるものの、どうにも気に入らないのは、選択肢の少なさです。
大きな三線の集まりに行くと、全員が同じ様な三線ケースを持つので、なにか目印でも付けて置かないと、大げさじゃなくて分からなくなる、そんなことが実際にあります。
ちなみに私は、車での移動の際はハードケースを、電車やバスでの移動なら背負えるセミハードケースを愛用しています。
余談になりますが、三線ケースって何処で作られているかご存知でしょうか?沖縄や海外ではなく、兵庫県の鞄の街、豊岡でそのほとんどが作られているそうです。
まとめ
初めての三線を選ぶ際には、棹の素材、本皮か人工皮か、まずはそのあたりの判断が必要になるかと思います。
何の心配も無くふんだんにお金を使って三線を購入できる方などそうそういらっしゃらないでしょう。
限られた予算の中で選ぶ三線だからこそ、少なくても今回紹介した三線のことは理解した上で、自分の三線を選びたいものです。
場合による、という言葉がつきますが、本皮張りの三線で、ケースから予備のパーツ全部揃えて5万円ぐらい、当たり前の工房ならば、それぐらいの三線をお願いすれば、この先ずっと使える三線が手に入るはずです。
購入後のメンテナンスは?
出来ればそこまで考えて、信頼出来るショップや工房、三線を弾く友人や先輩方のアドバイス、言葉は悪いかも知れませんが、利用できる物は全部利用して、納得の行くひと棹を手に入れたいものです。
沖縄の地へ行けば、三線店などはそんなに珍しくもないものですが、内地となるとそうはいきません。
東京や大阪と言った都市部を除いてはなかなか見ることも無いですし、もっと言えば、そんな三線店もそこで修理メンテナンスをしている訳ではないので、たとえば皮の張替えなども、職人の居る沖縄へ送ったりするので、送料も時間もかかってしまいます。
その点、宮絃会関西支部はもちろん、大阪の三線弾きは恵まれています。
三線工房きよむらさんがあるので、全くはじめてのの方でも、工房へ行けば所属する教室まで考えてくれた上で、予算はもちろん、皮の張りなど、全て考えて、長く付き合いのできる愛用三線を大阪の地で作って貰えますから。
>>> 三線工房きよむら
全くの初心者です。
三線を始めるに当たり、カンカラ三線で始めようか、ヤフオクで安いのを落札しようかと迷っておりましたが、おすすめに従い三線工房きよむらさんでお願いしました。
初心者なのに、オーダーメイド! って、ちょっと気が引けましたが、蛇のなが~い皮の状態から見せていただき、棹の種類やティーガーの模様まで、選ばせていただけ、とっても面白かったです。
ティーガーは、なんだか不良高校生の学ランみたいな柄を選んでしまいましたが、三線の胴に貼る分にはそんなに奇抜でもないよ、というアドバイスを頂いて、お気に入りをチョイスさせていただいた次第です。
すごく丁寧に作っていただけるようで、三週間待ちですが、出来上がりがとっても楽しみです!
ちなみにお値段ですが、本皮仕様のうえ、ケースや予備絃も含めて、5万円弱でした。
ギター経験者で何本もギターを買い替えてきた私としては、「安っ!」という感想です。沖縄で買うより安いかも、ということでラッキーでした!